スマホで撮った写真の背景はなぜボケないのか?AI補正でぼけを表現しなければならない理由とは

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ボケのある写真の魅力

ボケがある写真は、写真の主役を浮かび上がらせて目立たせる効果があります。そのため、ポートレート写真や生き物・花などに焦点を当てた写真でボケを取り入れることでより印象的な写真に仕上げることができます。
また、ボケがあると暖かさややわらかさなどの印象を与えることができるため、被写体が花やかわいい動物、子供などの場合には写真全体を暖かい雰囲気にすることができます。
さらに電球やろうそくなどの光源をボケさせることで玉ボケになり、幻想的な雰囲気をつくることができます。
逆に山岳風景や夜景など写真全体を見せたい写真や、堅い冷たいという雰囲気にしたいときにはボケがない方がいいことが多いとされています。

ボケと相性の良い被写体

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全体的に明るくてやわらかい雰囲気の写真に仕上げる時にボケがあると印象が良くなります。

ボケと相性の悪い被写体

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遠くにある風景を写すときにボケがあるとピントが甘くて中途半端な印象になるため注意が必要です。

ボケやすさを表す被写界深度とは?

被写界深度はピントが合っているように見える範囲を示す言葉で、ピントの合う範囲が狭い(ボケやすい)ことを被写界深度が浅いと言い、ピントの合う範囲が広い(ボケにくい)ことを被写界深度が深いと表現します。
ピントが合っている位置から離れれば離れるほどボケが強くなるため、被写界深度が浅い場合にはピントの位置をしっかり合わせないとピントが微妙に合わないといったことが起こり、良い写真にはなりにくいため注意が必要です。
その点、スマホのカメラは被写界深度が深いので、ピントの合う範囲が元から広いためピント合わせが比較的簡単で手軽に撮影できるというメリットがあります。
スマホではボケが表現しにくいのはなぜかを説明する前に、どうすれば被写界深度が変わるのか紹介していきます。結論を早く知りたい人はこちら(本ページの▼に移動)。

ボケやすさが変わる4つの要素

被写界深度が変わる4つの要素
被写界深度(ボケやすさ)が変わる要素は主に4つあります。
スマホの場合はカメラの性能として決まっているため、変更できない内容もありますが、どのような性能なのか代表的なスマホを例に紹介していきます。

絞り値(F値)

絞りはイメージセンサーとレンズの間にある受ける光の量を調整するための機構です。
光の受けられる量は絞り値(F値)で表され、絞り値が低いほど明るくボケやすくなり、絞り値が大きいほど暗くボケにくくなります。
一眼レフやミラーレスと接続するレンズの多くはこの絞りを調整して光の受ける量を場所や被写体によって変えながら撮影します。一方で、スマホの場合は絞りは固定絞りとなっていて絞り値(F値)を変更することができない機種がほとんどです。
iPhoneのポートレートモードにF値が変更できる機能がついていますが、これはAI補正によるボケ感を変える機能のため、実際に絞りが変わっているわけではありません。

スマホの絞り値(F値)はかなり小さい?

iPhone16/16 ProではF値が1.6と2.2の絞りが採用されています。一眼レフのエントリーモデルの標準レンズでは最小がF5.6などが多く、F値が小さいレンズでもF2.0以上のものが多いことを考えるとスマホは非常にF値が低いことが分かります。
F値が低いということはボケやすいのでは?と思うかもしれませんが、残念ながらF値が小さいことが関係なくなるほど他の要素の影響が大きいためスマホではボケ表現が難しいのです。
絞り値(F値)
機種 iPhone16 iPhone16 Pro AQUOS R9 pro Google Pixel 9 Pro Xperia 1 VI Galaxy S25 Ultra
広角 ƒ/1.6 ƒ/1.6 F値1.8  ƒ/1.68 /F値1.9 F1.7 , F3.4 , F1.9 , F2.4

超広角 ƒ/2.2 ƒ/2.2 F値2.2  ƒ/1.7 /F値1.9
望遠 ƒ/1.6 F値2.6 ƒ/2.8 F値2.3-3.5

焦点距離

焦点距離はピントを合わせた時のイメージセンサーとレンズの距離です。
焦点距離が長いほど遠くを写すことができてボケやすくなります。一方で焦点距離が短いほど広い範囲を写すことができてボケにくくなります。
言い方を変えれば、望遠レンズはボケやすく、広角レンズはボケにくいと言えます。
代表的なスマホのカメラの焦点距離を見てみると以下の通りです。35mm換算について、詳細は以下の記事で紹介しています。
焦点距離(*:35mm換算した値)
機種 iPhone16 iPhone16 Pro AQUOS R9 pro Xperia 1 VI
広角 約6.0mm(26mm*) 約6.8mm(24mm*) (23mm*) (24mm*)
超広角 約2.2mm(14mm*) 約2.2mm(14mm*) (13mm*) (16mm*)
望遠 約15.7mm(120mm*) (65mm*) (85-170mm*)
一眼レフの標準レンズの焦点距離は35~50mm程度(*APS-Cの35mm換算で約53~75mm)のため、比べてみるとスマホのカメラは圧倒的に焦点距離が短くボケにくいことがわかります。
これは、イメージセンサーのサイズが小さいほど写せる範囲が狭くなるため広角レンズ(焦点距離の短いレンズ)を使わなければならないという制約があるためです。

イメージセンサーの違いによる画角が変わる理由と35mm換算の意味を示したイメージ図

ちなみに、人の視野角は180°以上ありますが、注目した時にきちんと認識できる範囲はもっと狭く、カメラの焦点距離に直すと35〜50mm程度と言われています。そのため、焦点距離がこれよりも小さかったり大きかったりすると目で見た景色と比べると不自然さを感じます。

撮影対象とカメラの距離

カメラと写したいものが近ければ近いほど背景はボケやすくなります。
スマホの場合でも例外ではなく被写体に近づいて撮影すると背景がボケやすくなるため、花に近づいて撮った写真の背景がぼけて花が目立つ良い写真が撮れた経験をした人も多いと思います。
カメラと被写体の距離がものすごく近いマクロ撮影では被写体をより大きく写すことができ、背景のボケも大きくなるため被写体が際立つ写真に仕上げることができます。
マクロ撮影ができるスマホも増えていますが、iPhone16/16 proのマクロ撮影では自動的に広角レンズに切り替わるため、マクロ撮影ですがボケ感は弱くなります。
それに対してXperia 1 VIはテレマクロ撮影(望遠レンズのマクロ撮影)に対応しているため、ボケ感が強く一眼レフで撮ったような素敵な写真を撮ることができます。

Xperia 1 VIのテレマクロ撮影

撮影対象と背景の距離

ピントが合っている位置から離れれば離れるほどボケが強くなります。そのため、ボケを大きくしたいときは背景が遠方にくるように撮影するのがおすすめです。
スマホは被写界深度が深いため被写体と背景の距離が近いとボケがあまり楽しめないため、ボケを強くさせたいときは被写体に近づいて、背景を遠ざけることを意識するのが大切です。

スマホで背景があまりボケない理由

スマートフォンで撮影した写真のボケが少ない一番の理由は、一眼レフカメラで使われるレンズと比べると超広角レンズが使われていて焦点距離が非常に短いためです。
なぜ広角レンズが使われているかというと、スマートフォンのイメージセンサーが非常に小さいためです。同じレンズを使ってもイメージセンサーのサイズが小さいと写せる範囲が狭くなってしまうため、広い範囲を写すためには一眼レフよりもさらに広角なレンズを使う必要があります。
そのため、スマホのカメラは絞り値が小さいにも関わらずボケを表現することが苦手です。
そこで、スマートフォンではAIによってボケを再現することができます。詳しくは、また別の機会に紹介したいと思います。

まとめ

写真のボケ具合は、カメラに使用されている絞りのF値、使用されているレンズの焦点距離、カメラと被写体の距離、被写体と背景の距離が関係します。
それぞれボケやすくなる条件は以下の通りです。
  • 絞り値(F値):小さいほどボケやすい
  • 焦点距離:長いほど(望遠レンズほど)ボケやすい
  • カメラと被写体:近いほどボケやすい
  • 被写体と背景:離れているほどボケやすい
ただし、スマホに使われているイメージセンサーのサイズが小さいため、写せる範囲を広くするために焦点距離の短い広角レンズが採用されています。
そのため、撮り方を工夫しても背景を綺麗にぼかすことは難しく、AIによる補正を使わずに、実力で綺麗なボケを表現できる機種はテレマクロ撮影に対応している一部の機種に限られます。

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